健康維持のために ‐健康増進としての運動- 第2回「転倒予防」について
本通信では、数回にわたり、本年11月から当院の非常勤医師として勤務いただいている松瀬博夫先生(整形外科専門医)に、健康の維持・増進のための運動の代表である「ウォーキング」についてお話しして頂いております。 第2回目は「転倒予防」についてのお話を聞きました。
松瀬 博夫 先生
日本専門医機構認定 整形外科専門医
(運動器リハビリテーション医)
趣味:アウトドア、漫画
転倒予防
転倒の主な原因は筋力低下、バランス能力低下、認知機能低下、視力や聴力の低下、そして睡眠薬や降圧薬などの薬剤性です。
多くの方は室内(居間)歩行中に転倒されており、近年高齢者の転倒による死亡数は急増し、交通事故に比べて転倒事故による死亡率が約2倍となっています。また、重症外傷(脳挫傷や骨折など)を引き起こし、その後遺症による要介護者数も増加しています。
高齢者による転倒事故の背景に最も多いのが身体機能の低下と認知機能の低下です。特に75歳を過ぎた後期高齢者では認知機能の低下の影響が大きくなり、認知機能の低下は身体活動に影響することで身体機能の低下がより高まってしまいます。
転倒予防に効果的な方法
歩行時のフラツキはバランス能力の低下が原因ですので、何よりも重要なのがバランス能力の向上です。バランス訓練に加えて筋力増強訓練を行うと転倒予防により効果的です。
加えて家屋改修、白内障手術(眼科的治療)、積雪地帯での靴の工夫、家庭医への内服処方指導、といった複数の要素を組み合わせた取り組みでのリスク軽減が転倒予防へと繋がります。また、認知機能の低下に対する対策として国立長寿医療研究センターが『コグニサイズ』と名付けた認知機能の維持・向上に役立つ運動を開発しています。運動だけでなく、認知機能の訓練も同時に行うことは転倒予防に有効です。
※太極拳などもおすすめで、心肺機能、筋力、柔軟性、バランス機能などの維持・改善に効果的と言われています。
転倒を未然に防ぐための予防策は?
では一体いつから取り組んだらいいのか?とても気になりますよね。バランス機能低下のはじまりには個人差があり、一概に何歳からとは答えにくいところです。そこで、バランス能力低下のセルフチェックをしてみましょう。セルフチェックとして、歩いている時に周りの人から声をかけられた際に、立ち止まってしまう、というものがあります。
また、歩行速度の低下もバランス能力の低下の表れかもしれません。少し難しいですが、片足のつま先をもう片方のかかとにつけて、足を縦に揃えて歩くタンデム歩行があります。バランス訓練は少しでも毎日行うことが肝心です。少しでも気になる方はバランス訓練を始めてみてはいかがでしょうか。
※転んでしまわないよう、無理せず十分に気を付けて実施してください。