ヒートショック

公開日時:2024.03.12カテゴリー:しらかわ通信

暦の上では立春を迎える時期ですが、まだまだ寒さ厳しい季節です。

この時季、特に注意したいのが「ヒートショック」。

今回は当院、循環器内科医師の堺先生にヒートショックの原因や予防法などについてお聞きしました。

ヒートショックの問題は日本でどうなのでしょうか?

ヒートショックは一般的には暑いところ、寒いところの行き来で起こる生体現象のうち、生命、健康に危害のあるような状況をさししめしているという理解でいいでしょうか?

解りやすいところで言えば年間14000人程が寒暖の差に由来する状況で突然死していると考えられてます。交通事故死が2500~4000人ほどですのでかなり多いということです。

実はこのヒートショックの問題は日本特有の問題といっていいほど、ずば抜けて世界一多いようなのです。

どうして日本がこんなにヒートショックの問題が多いのでしょう?

理由は多々あると思いますがひとつには暖冷房設備の違い、断熱方法の違い等が大きいかと思います。

私は30歳の時、4年ほどアメリカに住んでいて、嫁がヨーロッパの人であることもあって、欧米の家具屋さんもいろいろ見てきましたが、欧米の家具屋さんにはエアコンは機器としてはそもそもあまり売ってません。エアコンだけでも色んなメーカーのものが沢山並んで家電量販店に並んでいるのは日本だけではないか?と思います。少なくとも欧米ではみかける景色ではありません。

ヨーロッパやアメリカは家の暖冷房設備のあり方としてセントラルヒーティング方式が導入されており、私の見てきた範囲では一般的に家中をひとまとめに温めたり冷やしたりするものとして、住宅そのものに組み込まれた設備として作りこまれているケースが大半でした。

結果としておうちの室内の温度がどの部屋もすべてほぼ一定に保たれていて、いうなれば家は全体が部屋をまたいで均一に温度管理されています。冬寒い欧米では室内に寒い場所がありません。外は-20℃でもおうちではTシャツ当たり前でした。

対して日本では世界標準のセントラルヒーディング方式ではなく、部屋単位のエアコンを採用しているケースが主流です。そのため家の中で部屋ごとの寒暖差が大きいという特徴があります。

エアコンはエネルギー資源が少ない島国の日本が選んだ建築様式であり、セントラルヒーディング方式のように家中温めるエネルギーは資源のない日本にとってエネルギー消費が多すぎる、要するに電気ガス代がかかりすぎるという事情が大きいためにエアコンを選んできたのではないか?と思います。

結果として日本よりはるかに寒い欧米の方が、自宅内での温度差が少なくヒートショックでの死亡者数も欧米の方が圧倒的に少ないです。逆にあまり極端には寒くはないはずの日本では冬場のリビングと廊下・水回り部分の温度差が10度ほどは異なります。

ですから日本のおうちで部屋から部屋の移動で温度が急激に変動した時、血圧や脈拍が上下し心臓や血管に大きな負担がかかり、脳卒中や心筋梗塞などのような心血管病を引き起こす要因となっていると考えられており、結果的には上で述べたような年間少なくとも14000人程は突然死しているという深刻な問題となっていると言えそうなのです。

日本のエアコンのエネルギー効率は世界トップレベルですが、建物そのものの断熱性能がとても低いという特徴もあります。従来から現在に至る日本の建築基準法、省エネ基準がそういうものを許容してきたものである結果、冬が寒い先進国でアルミサッシが主流なのは日本だけ、世界標準は熱伝導率の低い樹脂製、木製のサッシが主流です。アルミは熱伝導効率がとてもよく樹脂製、木製のものとくらべて1000倍以上も熱伝導してしまいます。

結果としてアルミサッシを多用した日本ではエアコンは優秀でもサッシ、窓から熱が逃げている断熱状態というのが実情です。それが、日本でよく言う“底冷え”ということなのでしょう。

2030年には日本の建築基準法も変わることになっていると聞きます。将来、欧米並みの断熱基準になった結果としてヒートショックの問題は日本で減少することを期待したいと思います。

こういうふうな日本独自の暖冷房設備の違い、断熱方法の違い等が日本のヒートショックが多い理由なのではないかな?と想像してます。

もともと日本人というのは欧米人よりもはるかに心血管病の数自体は少ない民族です。

このヒートショックの問題では逆にズバ抜けて世界一多いという逆説はこういった点の日本の特徴の結果かな?と思っています。

先生、心臓の先生でしたよね?ヒートショックいろいろあったんじゃないですか?

私は循環器内科医師ですが、急患ばかり見ていた若いときには、秋口から冬になるとしばしば夜中早朝に電話が鳴って急患到来!夜な夜な緊急手術直行という場面が多かったものです。

秋口から冬になって寒くなると心血管病の急患の患者さんが劇的に増えるのは間違いありません。先の述べました建築基準法、断熱基準、省エネ基準の改定で心血管病での急患≒ヒートショックによる急変、がどのくらい減るのかは全く未知数ですが、2030年以降、日本の建築基準、省エネ基準によって、今後、日本で新築されていくおうちの中での寒暖の差がなくなっていけば循環器内科の緊急手術件数が減少するのではないかな?と注目しますね。

『若いときはどこでんがら家の寒かったけん、ヒートショックで大変やったばい、ゆっくり子守もできんやった、今はよかけどね』と歳とった自分が次を担う娘達世代に、医師の心得を話しする時が何十年かあとには来るかもしれません。全く、かわらないもしれませんけどね。

一体どのような方が起こりやすいんでしょうか?

65歳以上お方が全体の9割を占めています。高齢になると血圧の変動が生じやすくなり、体温維持の機能も低下するため影響を受けやすいとされています。その他に、高血圧・糖尿病・脂質異常症等の動脈硬化リスクがある人、肥満や睡眠時無呼吸症候群、不整脈がある人もヒートショックの影響を受けやすいとされています。いわゆるメタボの方、動脈硬化の進んでいる方、動脈へ壁の慢性的炎症が隠れている方でしょうか。心血管病という風に私たち循環器内科の医者が呼んでいる方々がヒートショックのおきやすい方のメインであるならばそういう話になります。

ところが、実際にはヒートショックと総称される問題はそういう患者さん層とは異なった別の一群の患者層も混在しているようなのです。といいますのも、死亡診断書に医学用語ではないヒートショックという俗語を書く医者はいませんので、ヒートショックと言っている一群の方々というのは、死亡診断のうち、たくさんの診断名の集合体です。たとえば、お風呂場での溺水だとか、勝手口や洗面所での突然死とか、実態は様々なのでしょう。

ひとつお風呂場での急死という場面については入浴関連事故死としての調査研究が日本で関連3学会共同して大規模に行われています。お風呂場での急死の原因としては心血管病のような動脈硬化性病変を基礎とする器質的疾患もあるが、その関与は半数以下の可能性が高く、それ以外に熱中症(器質的疾患は関与せず長時間、高水温の入浴が体温上昇、意識障害をもたらして出浴が困難となり、その結果、入浴がさらに遷延して体温上昇がさらに高度となり、ショック=熱中症様の症状のため死亡に至る例)が多数あると想定するしかないような観察結果が相当数得られていました。

つまり俗にいう動脈硬化性病変由来の心血管病は半分以下でそれ以外の熱中症による機序が多めの結果だったというものです。ヒートショックという俗語の中に様々な病態が含まれているのは間違いがなく、それがいずれの原因であろうが温泉好きの日本で寒い時期に多いという事実は見逃せませんよね。気をつけましょう。

ヒートショックを防ぐためにはどうしたらよいのでしょうか?

屋内の温度差を2~3度以内におさめることが理想です。脱衣室にヒーター等の暖房器具の設置や、入浴前に熱いシャワーで浴室の床や壁を温めておくのも効果的です。安全な入浴(40℃以下、10分以内)を励行。長時間の入浴を避ける。介護の現場等では見守り入浴や声掛け入浴による早期発見が大切とされます。

各ご家庭の住まいに合った方法を上手に取り入れて、まだまだ寒さの厳しい季節を元気に乗り越えていきましょう。

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